誤嚥性肺炎 Aspiration pneumonia


http://www.terumo.co.jp/consumer/guide/symptom/enge/about/index.html

私達は食事の時に

①口に食物を取り込み

②咀嚼して飲み込みやすくした上で舌の奥の方に送り

③舌の動きで咽頭に送り

④さらに喉頭蓋谷に達すると

喉頭蓋が下を向いて気道に蓋をするとともに梨状窩から食物を食道に送り

⑥食道を通って食物が胃に向かう

という流れを自然に行っています。これを嚥下といいます。

特に、④、⑤の動きがスムーズにいかないと食物が気管に入ってしまいます。これを誤嚥といいます。

誤嚥するものは食物以外にも唾液があります。

誤嚥すると通常は咳反射がおこり異物を外に出そうとしますが、

嚥下機能が加齢、認知症、脳梗塞などで障害されると誤嚥しても咳反射が起こらなくなり、誤嚥したものが肺で感染を起こしてしまいます。

これを誤嚥性肺炎といいます。


嚥下機能障害をきたす原因にはさまざまなものがありますが、

脳血管障害、認知症、寝たきり、義歯不具合など、老化に関連したものが多いのがわかります。

誤嚥性肺炎は老人性肺炎と言ってもいいでしょう。


医療介護関連肺炎(NHCAP)における誤嚥性肺炎の治療としては、

①原因菌として唾液に含まれる口腔内常在菌、嫌気性菌をターゲットにした抗菌薬のほか、

②ワクチン(肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン)

③口腔ケア(口の中を清潔に保つ)

④鎮静剤、睡眠薬などはできる限り中止

⑤就寝時の体位は頭を少し上げる

⑥誤嚥しにくい食形態に変える(半固形、ゼリー食など)

といった誤嚥の予防対策をしっかりすることが重要です。

⑦ACE阻害薬、シロスタゾールといった薬は嚥下機能を改善させる可能性があるほか、

⑧摂食・嚥下リハビリを行うことも重要です。

 

以上のような対策をとっても誤嚥性肺炎を繰り返すようなら、嚥下機能は破たんしていることになります。

そうなると、口から栄養をとる(経口摂取)が難しいことから

「栄養をどうするか?」という問題が出てきます。

 

ひと昔前は、そのような人には胃ろう(胃に穴を開けて、栄養を直接胃から注入することで誤嚥を予防する)が行われてきましたが、今では少数です。

なぜなら、「胃ろうを作っても誤嚥性肺炎は減らない」ことがわかってきたからです。

誤嚥性肺炎の原因の多くは食物の垂れ込みではなく、唾液の垂れ込みだからです。なので、口から食事を取らなくても唾液の垂れ込みで肺炎になってしまうのです。

 

栄養は口からが難しい場合、

①中心静脈栄養(太い静脈から点滴で高カロリー栄養を行う)

②末梢の血管から低カロリーの点滴

③自然に摂食してもらって誤嚥性肺炎が起こってもやむなしとするか、

大きくこの3つから本人、家族の希望を尊重して選択することになります。

 

誤嚥性肺炎を繰り返す場合、その患者さんの嚥下機能は破たんしていることが考えられます。

ひと昔前なら「天寿」と判断されますが、医学の進歩により延命がはかられてきました。

しかし、胃ろうや高カロリーで延命することが本当に患者さんの幸せにつながっているのか、誤嚥性肺炎はすべて治療する必要があるのか、考える必要があります。

最新の成人肺炎治療ガイドラインでは「治療しない肺炎」という選択肢を提示しています。

繰り返す誤嚥性肺炎の患者さん、家族の方にはQOL(生活の質)を考えた治療選択をしていただければ幸いです。